米国が長崎に原爆を投下してから9日で78年。被爆者と同じ距離で原爆に遭ったのに、被爆者と認められない人たちがいる。国が指定する、被爆者と認められる地域の外にいた「被爆体験者」だ。被爆者の平均年齢が85歳を超えるなか、いまも被爆者の認定を求めて声を上げ続けている。
「被爆者」と名乗れない
長崎市の岩永千代子さん(87)は毎月のように、長崎県庁や市役所を訪れる。早く被爆者と認めて欲しい――。その思いを伝えるためだ。
岩永さんは9歳の時、爆心地から約10・5キロの地点で原爆に遭った。母の手伝いをした畑の帰り道。上空に2機の飛行機を見たかと思うと、光と爆風が襲ってきた。帰り着いた自宅の窓ガラスは枠が外れ、砕けていた。
その1週間後、髪をくしでとくと毛が抜け、歯茎から血が出た。顔は大きく腫れた。
40代になると、年に数日声が出なかったり、たんに血が混じったりする症状が現れ、「甲状腺機能低下症」と診断された。今も高血圧や糖尿病、メニエール病などにも悩まされる。
だが岩永さんは、国の定義に照らすと「被爆者」と名乗れない。原爆に遭った場所が、国が指定する地域の外だったからだ。
長崎で被爆者と認められる地域はいびつな楕円(だえん)形で、爆心地から南北はそれぞれ最大12キロで、東西は最大7キロ。原爆投下時の行政区画などをもとに決められた。岩永さんのように半径12キロ以内にいても、被爆地域外なら「被爆体験者」として区別される。
被爆者と認められると、医療費(自己負担分)は原則無料。特定の病気になると月に3万円余りの健康管理手当などが支給される。
国「精神疾患が原因」
一方、被爆体験者について、国は「放射線の直接的な影響はない」という立場だ。被爆体験による心的外傷後ストレス障害(PTSD)などの「精神疾患が原因」という診断を受けなければ医療費の補助を受けられない。医療費補助も被爆者より限定的だ。
「なぜ体験者は精神疾患が前提なのか。納得できない。差別ではないか」。岩永さんは言う。「わたしたちを被爆者だと認めてほしい。援護が欲しくて言っているわけではない」
岩永さんが言う「差別」。それは、長崎と広島の間にもある。
2021年、被爆者認定訴訟…
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル